人は変われる、関係性も変えられる

「社会脳」から考える自分らしく生きられる社会

掲載日:2026年2月20日(金)

第1回コラム 「脳を整え、未来を拓く」

 多くの組織が抱える突然の社員の退職、心の病、職場の人間関係悪化——これらは個人の性格や努力不足の問題として片付けられがちですが、神経科学の研究が進み、その本質は「脳の状態」にあることが明らかになってきました。
 現代社会のストレス下では、脳が「防御的」なモードに固定され、慢性的な「脳疲労」状態に陥ります。人の脳は、無意識に働く「動物脳(闘争・逃走)」と自分の価値観を大切にする「社会脳(仲間のために志に生きる)」という二つの機能があります。脳疲労が蓄積すると、本来発揮されるべき社会脳の機能が抑制され、動物脳が優位に働いてしまいます。この状態では、他者を信頼したり、創造的な発想を生み出すことが困難になり、組織の様々な課題が顕在化します。
 重要なのは、これらの問題を個人の資質として責めるのではなく、脳の仕組みとして理解することです。脳大成理論®に基づく企業研修プログラムは、現役大学教授陣による学術的監修のもと構築されています。科学的自己理解から脳の強みやストレスの状態を把握し、脳を「闘争・逃走」モードから「社会の中で生きる脳」へと整えることで、相互理解による円滑なコミュニケーションと活性化した職場づくりを実現します。
「人は変われる、関係性も変えられる」——これは精神論ではなく、脳科学に裏付けられた事実です。当社は、この確かな理論と科学の力を用いて、性格を責める社会から脳の状態を整える社会へ、組織と個人の本質的な変革を支援してまいります。このコラムを通じて、毎月、課題解決のヒントをお届けします。

[テキスト全文]

人は変われる、関係性も変えられる
―「社会脳」から考える、自分らしく生きられる社会


 今、なぜ私たちは、これほどまでに疲れているのでしょうか。  
 人事評価制度を整え、働き方改革やDXも進めた。それでもなお、職場では孤立する社員が増え、出社していても本来の力を発揮できない「プレゼンティーズム」が広がっています。うつやメンタルダウンによる休業、退職代行会社から突然届く離職の通知。ハラスメントを恐れて指導を控えれば、管理職の負担だけが一方的に積み重なっていきます。
 効率化を突き詰めたはずなのに、なぜ組織の活力は戻らないのか。この背景には、人と人が関係性の中で生きるための脳の働き「社会脳」―共感し、信頼し、役割を分かち合う機能―が、社会の急激な変化に追いついていないという構造的な問題があります。
 変化を加速させたのは生成AIの台頭です。事務作業や調査、検討、企画業務などが瞬時に処理され、私たちは「コスパ」「タイパ」を競い、意思決定のスピードを求められます。しかし、判断を下すのは生身の脳です。激増する選択肢に脳は疲弊し、深く考える余裕を失っています。「AIが考え、人が従う」という構図は人の主体性を弱め、依存による弊害が社会問題になり始めています。
 私は三十八年間、企業に勤め、最後は人事部門で制度設計や社内相談の現場に関わってきました。そこで痛感したのは、制度やルールといった「正しさ」をいくら積み上げても、人は必ずしも元気にはならないという事実です。むしろ、関係性が疲弊すればするほど制度は形骸化し、心は離れていく。その現実に、私は強い「問い」を抱くようになりました。
 二〇一七年、世界的ベストセラー100年時代の人生戦略『ライフ・シフト』を読み、人生が、従来の「教育・就労・老後」の三段階で終わらない「マルチステージ」の時代に入ったことに衝撃を受けました。寿命は1年で毎年3ヵ月も伸びており、生涯学習が欠かせないと知りました。翌年、運命を変える二冊目に出会いました。それは、働きがいや生きがいの根幹である「心のあり方」について書かれた『万人幸福の栞』でした。
 私生活でも転機が重なりました。五十八歳で再婚し、定年退職を迎えた六十歳の翌年、父が他界しました。父が緩和ケア病棟に入院した際、妻と二人で、この先の人生の質(QOL)を高めるための指針「五つのS」を定めました。 Smile(笑顔)、Simple(単純明快)、Smart(気の利いた関わり)、Special(尊重)、Satisfaction(納得と満足)。  にっこりと向き合い、シンプルに考え、相手を特別な存在として尊重し、互いに満足感を得られる関係を育てる。この「5S」は夫婦の合言葉に留まらず、出会うすべての人にも影響し、二年後に「社会脳」を活かすキャリア教育に出会うきっかけへと繋がりました。
 人の脳には、危険を回避するための「動物脳」と、他者と協力し意味を見いだす「社会脳」があります。私たちは共通の脳構造を持つホモ・サピエンスです。
 だからこそ、人は変われる。社会脳を意識すれば、関係性も必ず変えられます。この連載では「社会脳」という視点から、自分らしく生きられる社会へのヒントを皆さんと共に探っていきたいと思います。

鈴木光伸(すずき・みつのぶ)
自分らしく生きられる社会を創る
株式会社ソーシャルスタイル 代表取締役
社会脳を軸に人と組織を支援する
ブレインアナリストプロ   

梅は誰よりも早く、誰に言われるでもなく咲く。変わる力は、もともと自分の中にある

絵:鈴木恒夫